ブログ BLOG

障害年金における「社会的治癒」とは?

「社会的治癒」とは、障害年金と傷病手当金で使われている表現です。

桜

1.障害年金の「社会的治癒」の意味するところ

障害年金
「医学的には治癒に至っていない場合でも、社会保障制度の行政運用の面から、社会的治癒の状態が認められる場合は、治癒と同様の状態とみなす」とされています。

つまり医師の立場からはその傷病が治っていないが治った(治癒した)と同様に扱い、再び悪化して医師の診療を受けた場合には別個の(新たな)障害として扱う、ことを言います。
これは単に医療機関を受診していないことをもって社会的治癒を認めるということではなく、本来ならば医師の指導下で継続治療を受けなければならない場合は認められないと考えられます。
この社会的治癒を認めうる状態とは、医師の管理判断のもとで治療の継続が必要でなくなった場合や、継続治療が必要でもその内容が再発予防の範囲であると認められる場合であると考えられています。
注意すべきは、通院や服薬が必要とされる場合に自己判断で中断しその後に再発をした場合には社会的治癒とは認められないという点です。

2.社会的治癒と初診日の変更

初診日
 障害年金請求において、障害の原因となった傷病について初めての診療を受けた日の「初診日」は大変重要です。この過去の事実は変更できませんから勝手に自分の希望日を初診日にすることは認められません。
 ところが、社会的治癒が認められると初診日が変わることがあります。この社会的治癒とは医学的には治癒していない場合にも本人救済のために考え出された社会保険法上に特有の概念です。法令上の明確な定義はありませんがこれまでの判例により次の3条件が必要だと言われています。

【社会的治癒が認められる条件】
①特段の医療の必要がなかったこと
②症状が長期的に消失または安定していたこと
③通常の社会生活が、ある程度の期間にわたって継続できていたこと。

社会的治癒を主張するために必要な年数は概ね5年程度が目安と言われていますが、これは確定でなく個別の傷病状態により短くも長くもなると考えられます。

3.社会的治癒が認められるポイント

POINT
社会的治癒を主張するためには「病歴・就労状況等申立書」に、
下の3つの事項の時系列での推移が記載されることが重要です。

①初診日(発病に係る初診日)
②消失や安定した社会的治癒の期間の状態 
③再発後を初診日と主張する様態

特に重視されるのは②の期間についてどのように過ごしていたかを証明することです。
主張にあたり長期的に傷病が消失または安定していたことが分かるように説明できるかが大切です。

3-1.社会的治癒を主張する資料の例

①内科的疾患では、検査数値が数年にわたり正常の範囲内であったことが確認できる資料(通院履歴とその内容、勤務実績など)。

②精神疾患であれば支障なく就労継続していたこと、責任者や上司の役割を果たしていた、試験に合格した、行事や周囲との旅行に参加できていた等症状が安定していたと分かる資料(昇進や出勤を示す給与明細、写真、表彰状などの記録など)

③その他にも必要に応じての申立書(3親等以外の者の第三者証明を含む)を作成して添付することも考えられます。

4.まとめ

まとめ
 今回、障害年金の初診日が変更になるかもしれない方法として、社会的治癒を主張する方法について解説しました。
 この社会的治癒が認められるかどうかを判断するのは審査機関(日本年金機構)です。社会的治癒に関しては明確な法的判断基準は明示されていませんので個別の申請内容を診て判断されると考えられます。
 どれだけ様々な資料を添付して主張しても必ず社会的治癒が認められるとは限りません。繰り返しとなりますが、社会的治癒はあくまでも本人の救済のために考えられた概念です。   
また審査機関側が社会的治癒の概念を持ち出して本人に不利益な取り扱いをすることはできないとされています。
 つまりは、社会的治癒と考えられるような期間があり、それを主張したほうが有利だと判断されるようなケースでは自ら主張をしなければ取り上げてもらえません。
初診日から長い期間にわたって傷病と安定を繰り返している方にとっては検討されてみてはいかがでしょうか。

【補足】傷病手当金の「社会的治癒」の意味するところ

傷病手当金
健康保険による傷病手当金についても障害年金と同じく、社会的治癒が認められることがありますがその取り扱いについてはかなり違います

原則、傷病手当金は
「同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給期間が1年6ヶ月を超えないものとする」とあり、その後に再び受給できません。

しかし、「相当期間に渡って社会復帰(職場復帰等)をしていた場合は、社会通念上『治癒』としたものとみなし、最初の病気と再発は同一ではないものとする」(協会けんぽ)とありますので、再発の時点からさらに1年6ヶ月間、2回目の傷病手当金を受給できる可能性があります。この社会復帰期間は障害年金の社会的治癒より短く判断される傾向にあります。

この傷病手当金の社会的治癒についての判断はそれぞれの公的医療保険(協会けんぽ、健康保険組合)が判断しますので個別に確認するしかありません。
その判断は統一されているわけではなく保険者による違いがあると言われます。
但し障害年金の場合と比較すると社会的治癒はより認められる可能性は高く、何より職場復帰の有無が重視されると考えられます。

例えば、傷病手当金の受給を終えて社会復帰していた期間についても、1年以上の相当期間を特に制限されることなく働いていた場合などは、社会的治癒していたとして再び傷病手当金を受給できる可能性が出てきます。
この辺りが障害年金と傷病手当金の違うところです。

お問い合わせ
CONTACT

【お電話】
日中は、即時対応ができない場合があります。
着信履歴を確認後、折り返しご連絡いたします。

【メール】
お問い合わせフォームからお送りください。
1~2日中にご連絡いたします。